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多彩な論点で地球温暖化論に懐疑を唱えている伊藤公紀さんは、環境評価、環境計測がご専門です。

伊藤さんは 1950 年のお生まれです。横浜国立大学の工学部を卒業後、東京大学工学部で学位を取得され、その後、東京大学助手、講師を務め、現在は横浜国立大学大学院環境情報研究院で教授をなさっておられます。専門は物理化学、環境計測科学で、その知識を生かして環境省関係の審議会の委員を経験されるなど、多方面で活躍しておられます *1

温暖化懐疑論者の中における際だった特徴は、その IPCC への関わりです。伊藤さんは IPCC において査読を担当されています *2。ですので、IPCC の内部事情や弱点を詳しくご存知です。
もう一つ際だった特徴があります。それは、懐疑論に見られるいくつかの論点で、明確に IPCC と同じ立場をとっている *3 ということです。

たとえば、現在地球が温暖化しつつあるということは否定されていません。また、懐疑論者の多くが温室効果について理解してない中で、CO2 が増えると地球温暖化が起きるという点については、すくなくともそういうメカニズムが存在することは否定されていません *4。そのほかにも、CO2 濃度の増加が自然の変動では説明できず、化石燃料の燃焼によると考えなければならないとして、槌田敦氏や根本順吉氏の主張を否定されています *5

IPCC のことを熟知しているだけあって提示される論点は多種多彩です*6。 雲の効果、エアロゾル、スベンスマルク説、温暖化の観測などなど、温暖化のあらゆる分野にわたって実に深い知識を持っていて、それに裏打ちされた懐疑論を展開しています。

ただ、残念なことにたまにずっこけるようなことをおっしゃいます。これは IPCC を批判できそうな材料なら猫も杓子も使ってしまう *7 伊藤さんの態度に原因がありそうです。

たとえば、いわゆるホッケースティック曲線について IPCC の第三次報告書では採用されていたが、第四次報告書では無視されている、と、実際の記載内容をふまえない批判されています *8。また、相矛盾する懐疑論を同時に提示することもあります *9。さらに、自分が理解していない懐疑論をぶつけてくることもあります *10

もう一つ残念なことは代案を提示されないことです。地球温暖化が人為起源ではない *11 と唱える一方で、それではなぜ地球が温暖化しているかを説明しようとはしないのです *12

ただ、代案を提示していないのは議論の勝ち負けという観点からは強みです。エネルギー・資源学会の e-mail 討論で江守さんと議論になりましたが、伊藤さんは多数の論点 *13 を提示し、江守さんが一つ一つつぶしてもさらに新たな論点を浴びせかけ引き分けに持ち込みました 。伊藤さんは柱となる代案を示さず、懐疑論を並列に提起するだけなので、江守さんの攻撃は焦点を欠き、厳しいものにはなりませんでした *14

かように残念なところはあるものの、私の意見では伊藤さんは今回取り上げる五人の懐疑論者の中では群を抜いてまともです。それなのに、他の四人と比較して伊藤さんの知名度は低いように思われます。

伊藤さんは決してアカデミックに閉じこもっている方ではありません。地球温暖化に関して内容のある良い本を書いておられます *15。また、新聞記事などでインタビューされているのを見かけますし、ウェブ上で取り上げられることも皆無ではありません *16。しかしながら、他の 4 人の懐疑論者よりも、たとえば一般の人が書かれたブログなどで伊藤さんのお名前を見かける頻度は圧倒的に少ないように、また、取り上げられた際も熱烈に支持されることはないように私には思えます。

理由はいくつか考えられます。まず、先にも述べたように IPCC の論に対する代案を持っておられないことです。他の懐疑論者の方がなんらかの論を唱え続けているのに対し、伊藤さんは懐疑論を多数提示されているのですが、伊藤さんといえばこれ、というような論が見あたりません。次に、書かれた物を読むのに疲れる、という点があります。御著書は悪い物ではなく重要な情報が詰まっているのですが、詰まりすぎていて、真剣に地球温暖化を論じたい人はともかく、読み物としては取っつきにくいものになっています *17。さらに、懐疑論がテクニカルすぎることがあげられます。他の方が数行で説明できるようなことを唱えているのに対し、伊藤さんの唱える懐疑論の多くは、地球温暖化の科学を十分に把握している人でないと理解できないものです。

伊藤さんはもっと懐疑論を語る人たちに知られ、支持されてもいいと思うので、まことに残念です。

実は、温暖化を支持する気候研究者と伊藤さんとではほとんど同じものを見ているのではないかと私は考えています。同じものを見てはいるのですが、それを違うように表現しているようです。ちょうど、ビジネス書に出てくる、半分まで水が入ったコップのたとえのようです。コップを見たときに、半分空っぽのコップと考えるか、半分水の入ったコップと考えるかの違いに似た相違が、伊藤さんと気候研究者との間にあると思うのです。

伊藤さんは、自分と気候研究者との違いを、自分が実験物理化学の分野の出身であるからかもしれない、と述べています *18。なるほど、と思いました。

伊藤さんと気候研究者の間の違いは、そのほかにも、理学系と工学系の違いに根ざしているような気がします *19。理学とは、工学とは何か、なんて簡単に述べるのは本当は難しいことなのかも知れませんが、ここでは、大まかに、理学とは自然に対する知識を得ようとする人間の営みを、工学とは、知識を生かして(人間の)役に立つ技術を開発する人間の営みを指すものとします *20

いわば、理学とは未知の世界にあえて踏み出していこうという活動、工学とは既存の知識を組み合わせてよりよいものを築きあげていく活動と言えるでしょう。双方とも科学をバックグラウンドに持っているとはいえ、研究対象に向かい合う姿勢には違いがあるのです。

現在、地球温暖化の科学的側面を研究しているのは、主に理学系の科学者です。理学のバックグラウンドを持っています。地球の気候というとらえどころのないものを、何とか理解しようと努めています。

こんなこともわかっていない、あんなこともわかっていない、それなのに IPCC は人為起源 CO2 で地球温暖化するという結論をだしている、けしからん、と論じる伊藤さんの意識には、工学のバックグラウンドを持つ人の、理学系の気候学者に対するいらだちがありそうです。温暖化対策の議論の土台は完璧な知識だけで固めておくべきなのに、未知のものが多数紛れ込んでいる、ということに対する不快感が感じられます。

伊藤さんの言うことは、私には同意はできませんが理解はできます。理想論を言うならば、理学系センスを持った集団よりも工学的センスを持った、伊藤さんのような人の集団が、彼ら自身のやり方で地球温暖化問題に対処する方が良いはずです *21。ただ、地球温暖化は未知なことが多いにもかかわらず、今、この時点で対処を始めなければならない問題です。伊藤さんのやり方では、温暖化に対応できないのが残念なところです *22 *23

伊藤さんは、自分と気候学者が同意に至ることができないことを、それもまた良いのではないか、と述べました。私もそう思います。気候学者に劣らない知識を持つ伊藤さんが常に批判の声を上げ続けていることで、温暖化研究、および、その広報に緊張感が出るはずです。私には、批判者がいない状態よりも、伊藤さんのような有能な批判者がいた方が良いように思えるのです。

ただ、焦点をもうすこし絞って頂きたいと思います。ただただ懐疑論を並べるだけではなく、その中から厳選し、軸になる論を作って、伊藤さんといえばこれ、というような懐疑論が見えてくれば、自然と市井の懐疑論者の注目が集まりそうです。

良質の懐疑論が懐疑論者の中に広まれば、不毛な論争は減っていくはずです。伊藤さんの人気が出るようになれば、日本の温暖化懐疑論シーンもより洗練されたものになることでしょう。


温暖化懐疑論者一覧表に戻る


脚注

*1 プロフィールは横浜国立大のこちらのページに詳しい

*2たとえば こちら、Reviewers of the IPCC WGI Fourth Assessment Report の 971 ページ。江守正多さんをはじめ、日本の温暖化研究者達と並んで伊藤さんの名前が挙げられている。

*3 明確だけど、かならずしも "進んで" という感じではない。そこは、伊藤さんの人間らしいところ。

*4 このあたりは、たとえば、こちらの昨年行われたエネルギー・資源学会 e-mail 討論における事前アンケートを参照。不同意はあまり示さず、部分的同意を用いている。他の記述を会わせて考えると、IPCC について、伊藤さんは、それが述べる事実を否定するというよりも、断言する姿勢に疑問を投げかけている面が強いと思う。

*5 やはり e-mail 討論の記事 (p16) から。参加者の一人、丸山茂徳氏が CO2 の増加が自然変動であると主張していたことがあり、それに関して討論のコーディネータからコメントを求められて自然変動説を否定。"気が進まない" とおっしゃるところが正直で好感持てる。なお、コーディネータの要請は、策士、江守さんが裏で糸を引いていると私は推測する。

*6 たとえば、渡辺正さんとの共著、「地球温暖化のウソとワナ」では、次のような懐疑論を述べている。

「コンピュータシミュレーションはパラメータが多すぎる」
「アンケートによるとまともな気候科学者は温暖化に関して沈黙している」
「地表気温といっても定義が曖昧」
「百葉箱の塗装を変えただけで温度計の指す温度が変わる」
「ヒートアイランドの効果が観測データからうまく取り除かれていない」
「ホッケースティック曲線には疑惑がある」
「観測によると CO2 に対する気候感度はモデルの予測よりもずっと低い」
「北極の温暖化は大西洋水流入による自然変動」
「モデルは雲がうまく取り扱えない」
「モデルはスベンスマルク効果を取り入れていない」

…。
…。

え、えっと。これはほんの一部で、ここにあげた何倍もの懐疑論が書いてあるのですが、書ききれません。すみません。是非本をご覧ください。


*7 「猫も杓子も」は言い過ぎかもしれない。たとえば槌田さんの説などは取り入れていないので。

*8 こちらの e-mail 討論記事での発言。実際には第四次報告書にホッケースティック曲線は掲載されている。赤祖父さんなみの IPCC レポート勉強不足であり、残念。江守さんから指摘され、討論の最後に第四次報告書に入っていたことを、IPCC を批判しながらも認めてはいる。

*9 たとえば、やはり e-mail 討論記事での江守さんの指摘。エアロゾルの影響を IPCC が取り入れていないと批判しつつ、一方ではエアロゾルの影響を組み込んでいない将来予測の結果を重視すべきだと主張。

*10 これもやはり e-mail 討論で。これについては、『「温暖化の気持ち」を書く気持ち』のこちらの記事にちょっと詳しく書いてみました。

*11 "人為起源ではない" ではなく、"人為起源だとは言えないことを示唆する研究結果がたくさんあり、人為起源だとは信じられない" と言った方が正確か?

*12 あるいは、山のように代案を提示しているとも言える。しかし、お互いに相矛盾する論があるので、伊藤さんがどの懐疑論を有力だと考えているかはわかりにくい

*13 伊藤さんが提示した論点は、

「IPCC の用いた太陽光度変化の問題」
「北極振動の影響と、太陽活動の関係」
「着色エアロゾルの影響」
「海洋の温度測定における XBT の高温バイアス」
「Mann のホッケースティックに対する McIntyre の批判」
「鍾乳石における太陽活動との相関」
「Illis によりえられた低い気候感度」
「全球温度上昇よりも地域・局所的の気候変動の方が重要」

…、また途中で挫折。どんだけ物知りなんだ…。相手する江守さんも疲れるよなぁ…

*14 このあたりは丸山茂徳さんとまったく対照的。こちらのシリーズ記事を参照。これは、たとえば国会では万年野党の戦術と悪口をたたかれるようなやり方である。ただ、必ずしも建設的な同意を目的としない議論の際には合理的な戦術であると思う。

*15 たとえば、「地球温暖化論のウソとワナ」 。この本、渡辺正さんの書いた衝撃的な序章がおもしろすぎてたまらない。出版社の KK ベストセラーズ的にはそんなおもしろさが必要だったのだろう。一方で、伊藤公紀さんの書いた部分は堅実でおもしろみはやや少ない。落ち着いた記述であり、悪くないことが書いてあると思う。また、「地球温暖化―埋まってきたジグソーパズル」は良書らしい。こちらは私は読んでいないが、安井至さんが好意的な書評を書いていた

*16 たとえば、Yahoo のやっている月刊チャージャーのこちらの記事。私の知る限り、ウェブ上ではこの記事が伊藤さんの懐疑論記事としてもっともまとまっている。こちらで伊藤さんが紹介している懐疑論は…。



すみません、列挙するのに疲れました。ぜひリンク先の記事をお読みください。

*17 取っつきにくいとはいえ、たとえば『地球温暖化論のウソとワナ」などは、辞書的な使い方をすれば有用。あまりにもひどい懐疑論は省いてあるので、本の内容を信じてしまっても、たとえばこんな惨事はおこらないはず (リンク先の記事は長い。neko73 さんがまとめてくれたこちらの記事がずっと読みやすい)。この本からピックアップして議論の武器にするのが、懐疑論者としてのこの本の賢い使い方だろう。ただ、一般的に辞書は読み物には向いていない。

*18 e-mail 討論記事で (p19)。

…私がかなり誤差にうるさい実験物理化学の分野出身だからかも知れません.またあるいは,かつて苦い経験をしているからかも知れません.ある意味,科学研究の裏側を知っていますので,データの質や研究者の態度に敏感なのだと思います.



*19 これは、別なブログの、今は読めなくなってしまった記事にインスパイアされて書いている。インスパイアされただけなので、この考察の至らぬ点は私に責任がある。

*20 Wikipedia の理学はこちら、工学はこちら

*21 どうしても理学系の人は、なんというか、"夢見がち"なところがあるので。とはいえ、個人差の方がずっと大きいからそんな風に言ってしまうのは危険だが

*22 言ってしまえば、いまの気候学は、伊藤さんを満足させるには百年早い、ということだ。100 年かけて実際に地球を温暖化させるしか、実験物理化学的な厳密さを要求する彼を納得させる方法はなかろう。その時でも「観測誤差ではないのか」と言われる可能性もあるが。

*23 なお、以上で述べてきたことにかかわらず、多くの工学系の研究者が温暖化対策に関わっていることは強調しておくべきだろう。理学と工学という座標軸だけで議論するのはもちろん乱暴であり、個人の科学、技術に対する姿勢はそれだけで決まるわけではない。他の要素にも大きく左右される。
タグ 記事:一周年特別企画 はてなブックマーク - 一周年記念特別企画・地球温暖化懐疑論者列伝 (4) 伊藤公紀さん
2010.02.04 Thu l 温暖化懐疑論概論 l COM(6) TB(0) | top ▲

コメント

No title
疑うことと否定とは違うからなぁ。
つまり、
「温暖化を信じてはいない」≠「温暖化していないと信じている」
ってこと。
懐疑論(=前者)のスタンスを否定するのはなかなか難しいと思うよ。
証拠不十分と言われたらそれまでだから。
2010.04.01 Thu l 草食系温暖化論者 -. URL l 編集
Re: No title
4/1 コメさま

おっしゃる通りですね!

しかし、エイプリルフールのコメントに返事するのは難しい…
2010.04.02 Fri l onkimo -. URL l 編集
No title
4月30日に「IPCC問題の検証と今後の科学の課題」というシンポジウムが日本学術会議主催で開かれます。参加者に伊藤さんの名前もありますね。
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf/94-s-3-1.pdf
2010.04.15 Thu l duket -. URL l 編集
Re: No title
duket さま

情報ありがとうございました。そんなシンポジウムがあるんですね!

こういった会議に名前が出てくるあたり、伊藤さんの安定感が評価されているのだと思います。ここで取り上げた他の人たちとちがって、議論が成立しうるので。

あと、懐疑論側は草野さんですかね。草野さんは良い研究者だとおもいます。でも、懐疑論者としては迫力不足です。

私としては、伊藤さんと草野さんのかわりに、武田さんと丸山さんに出席していただいて、旋風を巻き起こしていただきたかったです。

ぜったいその方がおもしろいとおもうんだよなぁ。
2010.04.15 Thu l onkimo -. URL l 編集
No title
あけましておめでとうございます。
卒論でCO2削減に向けてというテーマで環境・経済・エネルギーをからませながら書いているのですが、根底を覆される恐れのある温暖化懐疑論が気になって仕方がありませんでした。懐疑論者の書いている本を自分で読む時間もなかなか取れず…
このブログで一番気になっていた「地球温暖化のウソとワナ」について分かりやすく解説されていて大変参考になりました。
今後も個人的に勉強していこうと思います。
2011.01.03 Mon l sakio lEEnYewM. URL l 編集
Re: No title
sakio さま

最近こちらのブログをチェックしていなかったので、返信
遅れて失礼しました。

卒論で温暖化についてかかれたとのこと、でも、懐疑論を気にして居られたとのこと。

懐疑論に関する反論は意外に見つかりにくいですよね。このブログが少しでも参考になったのであれば幸いです。

何にでも疑問を持って向き合うことはいいことだと思います。これからも温暖化に興味を持ちつづけていただければうれしいです。
2011.01.23 Sun l onkimo -. URL l 編集

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